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冒頭数作はとっつきにくいものの、 テーマの進化を年代順に追う構成が珠玉のアンソロジー-『フランケンシュタインの子供』

『フランケンシュタインの子供』

風間賢二・編/1995年/370ページ

名作「フランケンシュタイン」の後、人造人間をモチーフとした様々な形の小説が誕生した。死者を蘇らせること、人間を創造することにとり憑かれてしまった者の苦悩と狂気に満ちた運命の数々―。古典から本邦初訳の知られざる名作までを集めた、フランケンシュタイン・アンソロジーの決定版。

(「BOOK」データベースより)

 

 原作者のメアリー・シェリーに『白鯨』のメルヴィル、ラヴクラフト、ジョン・コリア、ロバート・ブロック、カート・ヴォガネット・ジュニアと収録作家の顔ぶれが豪華。年代順に収録されているため、フランケンシュタイン・テーマ作品の進化・バリエーションの広がりっぷりがわかりやすい一方で、序盤の大仰でゴシックな作品群が「一見さんお断り」的な雰囲気を出してしまっている。まあ冒頭の3編さえ乗り越えればあとは平易な文章で読みやすいです。

 

 ユーモア小説の印象が強いジェローム・K・ジェロームの「ダンシング・パートナー」は、天才おもちゃ職人の老人が作ったダンスロボットが巻き起こした悲劇。詳細を語らないラストがなんとも気持ち悪く、短くも忘れがたい逸品。ジョン・コリアの「腹話術奇譚」は腹話術師の人形が意志を持つという軽妙かつ気色の悪い短編で、オチは「ダンシング・パートナー」と同じ気もする。この2編は特に拾い物であったが、全体的にクオリティは高い。

 「変身」は許嫁に逃げられた放蕩バカ息子が、財宝と引き換えに醜い男と肉体を交換する…というもので、いくらメアリー・シェリー作とは言えこれをフランケンシュタインテーマに入れるのは少々ムリがある気がするが、「分身」という観点から言えばアリなのだろうか。メアリー・シェリーのもう1作品「よみがえった男」は「氷漬けにされていた男が170年ぶりに目を覚ました!」という東スポのヨタ記事みたいなニュースに着想を得た作者が、よみがえった男が現代でいかに考え、いかに生活するかを空想するというエッセイ風の小品。「鐘塔」は、とある機械職人が巨大な鐘付き時計台を作る話。様々な芸術的な仕掛けを塔にほどこした機械職人は、仕上げとして鐘を突く人型の自動人形を作り出すが…。「新フランケンシュタイン」「愛しのヘレン」は女性型ロボット、「死体蘇生者ハーバード・ウェスト」「ついに明かされるフランケンシュタイン伝説の真相」はゾンビテーマ、「不屈の精神」は人造人間テーマの作品。「フランケンシュタインの花嫁」は同名映画のシナリオそのままで、それなりに面白いと同時に蛇足感もかなりのもの。「プロットが肝心」はロボトミー手術の結果なぜか映画の世界に迷い込んでしまった女性の奇妙な話。風間賢二によるあとがきも同テーマ作品の歴史が簡潔にまとめられており、必読の内容。

★★★★(4.0)

 

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