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青春トレンディ小説の名手が送る、不穏が過ぎる陰キャミステリ-『屑籠一杯の剃刀』

『屑籠一杯の剃刀 自選恐怖小説集』

原田宗典/1999年/193ページ

……「恐怖」に至る一歩手前で感じられる「奇妙」という感覚を描いてみたかった。日常と非日常、あるいは現実と非現実との境界線上に、きわどく存在する奇妙な世界。それを物語ることはぼくにとって、習作の頃から現在に至るまで、常に好奇心を刺激する試みであり続けている。(あとがきより)脳髄の片隅に封印された記憶がふとしたはずみに甦る違和感を描いた「みずひこのこと」をはじめ、掌編小説の名手がデビュー前夜に綴った幻の恐怖譚2編を含む6編を収録。

(Amazon解説より)

 

 原田宗典と言えばエッセイや青春小説の印象が強かったのだが、短編はミステリや怪奇寄りのものも少なくないのだとか。本作もなかなかの掘り出し物ぞろい。

 ‟痛覚を持たない”という昔の奇妙な友人の思い出が、主人公のアイデンティティを揺らがすまでに膨れ上がる「ミズヒコのこと」。朝起きて大学に向かうと街は完全な無人、慌てて警察に電話してみると普通につながって一安心。…からのもう一捻りに翻弄される「削除」。「削除」、これは良かった。「街に誰もいなくなっていたテーマ」のデフォルト作品として設定したい。

 海外へ旅立つ女性を車で空港へ送り届ける男性。なにやらオサレな会話を繰り広げる2人だが、彼女の右手にはなぜか包帯が。そして話は意外な方向へ…というミステリ「ポール・ニザンを残して」。記憶喪失の状態で、しかも外国で目を覚ました男。必死に記憶を掘り起こすと、自分をストーキングしていた女のことが思い出されてきた…という「空白を埋めよ」。作者のデビュー前の習作で、ぶつ切りのラストがひたすら不穏な「いやな音」。表題作「屑籠一杯の剃刀」はやや複雑な家庭事情を持つ主人公の連作で、ラストの「西洋風林檎ワイン煮」の厭ぁぁあぁぁな匂わせっぷりがたまらない。林檎ワイン煮からこんな連想します? 普通。

★★★★(4.0)

 

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