『チューイングボーン』
大山尚利/2005年/324ページ
“ロマンスカーの展望車から三度、外の風景を撮ってください―”原戸登は大学の同窓生・嶋田里美から奇妙なビデオ撮影を依頼された。だが、登は一度ならず二度までも、人身事故の瞬間を撮影してしまう。そして最後の三回目。登のビデオには列車に飛び込む里美の姿が…。死の連環に秘められた恐るべき真相とは?第12回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
主人公・登の心情を微に入り細を穿つ筆致で描いており、本筋に関係ないような描写も多く、最初はスティーヴン・キングが自嘲するところの「文学的象皮病」かと思ったがとんだ心得違いだった。序盤100ページ辺りは難儀するが、共感性の高いエピソードが多いため、読者も「奇妙な出来事に翻弄される一方で、無為なバイト生活を続けざるを得ない登」とどんどん一体化していく。だからこそ、登の異常性を突き付けられる中盤、そして登の行動に共感できなくなってしまう終盤の展開が活きてくる。これは怖い。今日日のエンターテインメント系ホラーではあまり味わえない恐怖である。
怪奇な事件の黒幕を暴け! みたいなタイプの作品ではなく、あらすじにあるところの「恐るべき真相」自体に突飛さや意外さは無い(と言うか、真相部分は少々ご都合主義で無理があり、本作最大の弱点でもある)。主人公の生きざまを追体験できたかどうかで評価は変わりそうだが、個人的には得難い読書体験をもたらしてくれた傑作だ。
★★★★★(5.0)