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知る人ぞ知る異色作家のオリジナル短編集。雑に世界が破滅するノーフューチャーな1冊-『夢魔の通り道』

『夢魔の通り道』

村田基/1997年/382ページ

「夢」と「現実」の隙間から這い出してくる虫。あらゆる生物が生きたまま腐敗する世界。たった一日で悟りを得られる宗教の流行。植物と交わる女。子供を教育することが許されない未来、突如おのれの寿命を悟ってしまう人々の出現、永遠に終わらない悪夢の中に閉じこめられた男etc、etc…。轟音とともに、この世界が崩壊する。13の研ぎ澄まされた悪夢の剣。ホラーファン待望の精選短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 知る人ぞ知る、という形容がよく似合う異色作家・村田基の単行本未収録作品を集めたSFホラー短編集。かなりの割合で世界が破滅するのでたいへん景気がいい。

 すべての人々が自分の死期をなんとなく悟ってしまう社会の変貌を描く「生と死と狭間で」、あらゆる生き物が生きながら腐り果てていく「腐敗都市」などは、やや古典的ながらもこのまま長編になり得るポテンシャルを秘めたアイデア。理不尽な侵略ホラー「裂け目」、デタラメ極まりないバカSF「つるつる」、とにかく読者をイヤな気分にさせてやろうという気概が頼もしい「醒めない悪夢」「みにくい美女」も忘れがたい。

 誰もかれもが悟りを開いてしまう「悟りの時代」、正義という概念自体がなくなった未来図「すばらしき正義の国」、教育が非合法となった世界「最後の教育者」といったディストピアSFもキレがよく、傑作揃いである。ありとあらゆる手法で暗黒の未来を描き出す、終末の魔術師の作品群。

★★★★(4.0)

 

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