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ヤクザvs○○○、高齢者vs若年者、ゾンビvs一般人…勝者無き抗争を描く最悪の近未来-『熱帯夜』

『熱帯夜』

曽根圭介/2010年/272ページ

猛署日が続く8月の夜、ボクたちは凶悪なヤクザ2人に監禁されている。友人の藤堂は、妻の美鈴とボクを人質にして金策に走った。2時間後のタイムリミットまでに藤堂は戻ってくるのか?ボクは愛する美鈴を守れるのか!?スリリングな展開、そして全読者の予想を覆す衝撃のラスト。新鋭の才気がほとばしる、ミステリとホラーが融合した奇跡の傑作。日本推理作家協会賞短編部門を受賞した表題作を含む3篇を収録。

(「BOOK」データベースより)

 

 表題作「熱帯夜」は凝ったギミックを持ちながらスラスラ楽しく読める快作ではあるが、ほぼ純粋なミステリだし、「ミステリとホラーが融合した奇跡の傑作」という持ち上げ方には少々疑問が残る。個人的には本書収録の残りの2編が大当たりだった。「あげくの果て」は‟高齢者徴兵制度”が実施されている近未来の日本が舞台。高齢者の過激派は連合銀軍なるゲリラ組織を結成してテロを実行、壮年や若年との対立はますます激化していき…という、筒井康隆を思わせる作風の皮肉に満ちたSF。「最後の言い訳」はゾンビパニックものだが、本作のゾンビたちは人肉食嗜好を理性で抑えつつ、ほぼ生前と変わらないまま一般人と共存している…という設定が少々風変り。ヒロインはアニメキャラみたいな造形だが魅力的で、オチは早い段階で割れるものの非常に切ない一篇。トータルで見れば傑作揃いの中編集。必読。

★★★★☆(4.5)

 

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