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全部読めるといいですね。

歪みに歪んだ家族像の怖さ。いい意味で「スッキリしないもやもや感」の連続-『角の生えた帽子』

『角の生えた帽子』

宇佐美まこと/2020年/320ページ

何度も同じような悪夢を見る。それはさまざまな女をいたぶり殺すことでエクスタシーを覚えるという夢だ。ある日、その夢と同じ殺人事件が起こっていると知る。犯人として報じられたのは、自分と同じ顔をした別の名前の男だった―。運命の残酷さ、悲劇を描いた「悪魔の帽子」、松山が舞台の正統派ゴーストストーリー「城山界隈奇譚」など、惨くせつなく運命に巻き込まれてゆく人間たちを描く、書き下ろしを含む12篇。

(「BOOK」データベースより)

 

 インパクトで言えば前短編集『るんびにの子供』のほうが1作1作の破壊力は高かったが、本書もこの作者ならではの作風を存分に味わえる良短編集である。作者の描く「家族像」の描写が個人的に大好きなので、純粋かつ悲痛な想いが生んだ“誰も悪くない最悪の悲劇”を描く「あなたの望み通りのものを」は好みの一篇。この作者の場合、作品内で起こる怪奇現象よりも人物の心理描写のほうにぞっとさせられることが多いのだが、そういう意味では手垢のついたテーマを生々しい暴力性で描く巻頭作「悪魔の帽子」は少々浮いている印象がなくもない。「城山界隈奇譚」「夏休みのケイカク」など、ノスタルジックなちょっといい話と思わせておいて…という意地悪な展開の話も多く、スッキリしないもやもや感が残る(むろん、ホラーにおいては「いい意味で」である)。本書の中では唯一さわやかな読後感ながら、そこに描かれる家族の在り方にガツンと衝撃を受ける「湿原の女神」も良い。

★★★★(4.0)